≪野鳥観察情報≫
   鳥観察・探鳥の極意
 ======== by 吉成 才丈さん

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  第5回 冬鳥を、見て聞いて覚えましょう
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〈平野部に飛来する代表的な冬鳥〉
「間もなく平野部にもツグミが降りてきます…」というと、「むむっ、冬鳥は寒さの厳しい高緯度地域や大陸から飛来するけど、"降りてくる"って、どこから降りてくるの?」と疑問を感じる方もいらっしゃるかと思います。
日本海側には、渡りの中継点とも呼べる離島が点在しており、こうした島では比較的簡単に渡り鳥を観察することができます。秋の渡りを例にとってみると、早い種では9月中旬頃から渡りが観察され、遅い種では11月まで移動している様子が観察されます。今年は10月中旬にある離島へ行って来ましたが、はるばる渡ってきたジョウビタキやツグミ、アトリ、マヒワなどが多数観察されました。

話を戻しますが、東京を含めた関東の雪の少ない平野部にお住まいの方は、どういった順番で冬鳥が観察されるか思い起こしてください。私が住む東京の大田区蒲田周辺では、10月下旬にジョウビタキが観察されます。飛来した当初は電柱や電線、屋根の上などの目立つところに止まり、"ヒッ、ヒッ、ヒッ…"とよく鳴く姿を見かけます。そうです、冬を越すために飛来したジョウビタキは、安定した食料を確保するため、自分の縄張りを確定しようとしているようです。こうした行動はモズなどの種でもみられ、オス・メスが個々の縄張りを主張し合っている様子が観察されることも珍しくありません。つまりジョウビタキは、他の個体より早く越冬地に到着する方がよい環境を占有できるため、他の冬鳥よりも早めに到着するのでは…と考えることができるかもしれません。
では同様に、東京でも冬に普通に観察されるツグミはいつ頃訪れるのでしょうか? 先日訪れた離島では、ジョウビタキと共に多数の個体が観察されたツグミですが、東京へやってくるのは寒さが厳しくなってきたと感じられる12月頃でしょうか。では一体、日本に到着してから東京に飛来するまで、ツグミはどこで生活しているのでしょうか?
日本に飛来した当初、ツグミは主に山地に生息しているようです。そして寒さが厳しくなり、山地が雪に覆われる頃になると平野部に"降りてくる"ようです。習性の違いなんでしょうね。同じようなエサを食べるのに行動パターンが異なるとは、とても興味深いと思いませんか?

冬鳥、とくに種子を主に食するアトリ科の仲間は、年によって飛来する個体数がかなり異なります。これは繁殖地や越冬地への途中でエサがどの程度あるかによることが影響していると考えられております。一昨年の冬季はアトリやマヒワが東京でもよく観察されましたが、昨冬はかなり少なかったようです。さて今年の冬鳥はどんな状況になるでしょうか?

〈身近な環境を見直してみませんか?〉
私の住む東京都大田区蒲田周辺は家が密集する、いわゆる下町の環境なのですが、冬にはいろいろな種が身近で観察できます。留鳥のメジロやシジュカラはもちろん、民家の庭先やちょっとしたビルの植栽では毎年ウグイスが観察されます。また、ある程度まとまった樹林があり、薄暗いような環境があるところではシロハラやアカハラ、ルリビタキなどが観察できることもあります。また多摩川には干潟やヨシ原もあり、サギ類やカモ類、カモメ類、カワウ、カンムリカイツブリ、セイタカシギ、タシギなどの水鳥のほか、オオジュリンやセッカ、ツリスガラ、タヒバリなどの小鳥類も観察することができます。こうした大きな河川でなく、小さな水路や公園の池などでも、冬にはカワセミやセキレイ類などの思わぬ鳥に出会えることがあります。鳥見を始めたばかりの方は、身近な自然を見直してみませんか?

〈声は識別の重要な要素です〉
小鳥のさえずりを聞くだけで幸せな気持ちになる方は多いことでしょう。さえずりはメスへの求愛や他のオスへの誇示など、重要な繁殖行動の一部であり、主に繁殖期に鳴くことが多いです(ヒバリやホオジロなどは、冬でもさえずる個体が時折観察されます)。自分自身の経験からしても、さえずりから声の主を識別することは、初心者にとっては至難の業であると思われます。しかし、非繁殖期にあたる冬には短い単純な声で鳴くことが多く、こうした声は一般に"地鳴き"と呼ばれます。冬は葉も落ちて鳥も見易く、鳴声と姿のセットで覚えることも比較的容易かもしれません。
ガンが越冬に訪れることで有名な伊豆沼や蕪栗沼ですが、10月のカウントで5万羽以上のガン類が飛来しているとのニュースが届きました。これらはほとんどがマガンなのですが、中にはカリガネやヒシクイ、シジュウカラガン、ハクガンなどもごく少数が混じっております。中でも、とくに姿が似ているマガンとカリガネは、よく観察しないと見分けることができません。カリガネは多くても20羽程度しか飛来しませんので、マガンの群れからカリガネを見つけるのは大変な作業です。しかし地元の達人は、「飛翔するマガンの群れからカリガネを探す有効な手段は鳴声を聞き分けることである」と言い切ります。つまり、声を覚えることは種の識別にも有効であることは間違いありません。
声を覚えれば、野外で確認できる種は間違いなく増えるはずです。覚えるコツは別の機会に紹介しますが、先ほど紹介した冬に身近に観察されるウグイスも、鳴き声で気付くことがほとんどです。この冬は、地鳴きの識別にチャレンジしてみませんか?

〈お薦めCD〉
CDは何種類も販売されており、用途によって選ぶことができます。身近な種に絞ったCDは初心者向けなのですが、残念ながら収録されている声は"さえずり"が主で、非繁殖期に聞かれる"地鳴き"はほとんど収録されておりません。いきなり多くの種を収録したCDをとは思いますが、内容にバリエーションの多い下記CDをお薦めします。ご不明の点などありましたら、遠慮なくHobby's World(info@hobbysworld.com)まで問い合わせ下さい。

『日本野鳥大鑑 鳴声420 増補版』(小学館/\14,700-)
6枚組のCDで、ガイドブックも付属されてます。野鳥だけでなく、よく見られる外来種なども含まれております。またさえずりだけでなく、地鳴きや警戒声なども含まれる種もあり、現時点ではもっとも充実したCDといえるかもしれません。

『野鳥の声 283』(山と渓谷社/\6,300-)
3枚組のCDで、山渓のハンディ図鑑に対応した編集がされております。すでにハンディ図鑑をお持ちの方が、セットでお使いになるケースも多いようですね。

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吉成 才丈