≪野鳥観察情報≫
   バードウォッチングのミカタ
 ======== by 松田 道生さん
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  第2回 ヤブサメは若いうちに聞け
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ヤブサメの声が聞こえなくなってしばらくたちます。

私は、1991年から栃木県日光に通っています。日光は、ヤブサメが多く藪の中から聞こえてくる虫のような声を聞くと初夏の訪れを感じました。ところがいつの頃か、日光ではヤブサメの声を聞くこと少なくなり、減ってしまったと思っていました。私が50歳になった時です。

この頃、小学館の「探鳥地図鑑・首都圏」の取材で檜原都民の森に行ったとき、同行した40歳代の編集者が「ヤブサメが鳴いている」と教えてくれました。しかし、私には聞こえません。「また、私を年寄り扱いして・・・」と、持っていたマイクと録音機を通してヘッドホーンで聞くとヤブサメ特有の「シシシシ・・・」という声が聞こえます。録音機を通すことで音が増幅され、聞こえたのです。

それまで日光のヤブサメが減ったと思ったのは間違いで、私の耳が悪くなっていたことわかり愕然といたしました。

その後、毎年受けている人間ドックのメニューに耳の検査が加わり、それにも高音域が聞こえていないというマークが付くようになりました。ヤブサメの声は、8,000Hzから10,000Hzです。ちなみに、人は20Hz〜20,000Hzまで聞こえると言われています。また、人の話し声は、100〜500Hzくらいです。

今でもヤブサメの声がまったく聞こえないわけではありません。近くで鳴いてくれれば、わかります。また、いっしょにいるカミさんや鳥仲間がヤブサメが鳴いていると教えてくれて、耳を澄ませば聞こえることもあります。要するに、高い音が大きくないと、あるいは近くでないと聞きづらくなっているのです。

ということは、定年退職をしてこれから余生をバードウォッチングを楽しもうと、この世界に入ってきた方は、ヤブサメの声を聞くことができない可能性があるわけです。

また、高い声で鳴く鳥はヤブサメばかりではありません。最近では、アオジの地鳴きも同行者によって教えてもらえることがありますから、これも聞き辛くなっています。アオジの地鳴きも、8,000Hz以上あります。

また、ミソサザイのさえずりは4,000〜8,000Hzと幅広く、高音域まで広がっています。この高音域の部分が聞こえなくなってくることになります。mp3などの音を圧縮したファイル形式は、人の声の音域のない高音域をカットしています。そのため、野鳥の声をmp3に変換すると高音域がカットされ不自然な声になってしまいます。それと同じように聞こえる可能性があるわけです。

これは仕事上、たいへん差し障りがあるので先日、病院に行き検査を受けました。大病院ですから、検査を受けるだけで1時間待たされました。さらに、先生の診察で呼び出されるまで1時間。検査の結果は案の定、耳の能力は4,000Hzあたりから急に落ちています。そして、先生は「自然の摂理ですからしょうがないですね」というコメント。要するに年をとったのだからあきらめろと言うことなのでしょう。診察室の前で待っているなかには小学生もいて、親とのコミュニケーションは身振り手振りです。それに比べれば人の声が聞こえる私は、たいしたことのない患者ということになります。

2時間待って診察は1分間で終わりそうです。これではもったいないと「先生、これ以上、耳を悪くしないためにはどうしたら良いでしょうか」と、私はたずねました。すると先生は「自然のなかで自然の音を聞けばよろしい」。ということで、さらに仕事をしなくてはならなくなりました。